宮崎駿氏の「泥まみれの虎」を読みました。
ティーガー戦車を駆使して闘うオットー・カリウス氏が主人公の漫画です。
昨年、漫画の「風立ちぬ」を読みました。緻密に、しかし優しく柔らかく描かれた航空機や、コマいっぱいに書き込まれた色々な情報に知的好奇心が満たされ、映画も好きだけど漫画もいいなぁ、いい本に出逢えたと思っていました。
そして、宮崎氏は戦車(しかもティーガー)の漫画まで描いていた となればこれは読まない手はないと思ってしまいまして。
期待通りの読み応えで面白かったです。何より描いてる人の愛情と熱意が容易に伝わりました。
「泥まみれの虎」はエストニアのナルヴァ戦線で、たった2輌の戦車で戦ったオットー・カリウス氏のお話です。
舞台となった土地の地面の状態や地形まで克明に描かれていて、状況がリアルに想像できます。
読んでいて、まるで現地にいるみたいだな…と思いましたが、宮崎氏は実際にこの地を訪れていることがわかり、そのリアルさにも納得しました。
この話はとにかくカリウス氏の力はすごいなと思わせるものでした。
今まで私がもっていたカリウス氏のイメージが「なんかとにかくすごくて戦後ティーガー薬局やってた人」みたいな漠然としすぎたものだったんですが、冷静さと、地形を前もって自分の足で歩き調べる計画性と、的確な判断力を持った優秀な人物だったんだとわかりました。
当時のカリウス氏の年齢を知って、想像以上に若くてびっくりしました。
今の私とほとんど変わらない年齢の人が、ここまでのことをやれるのか…とショックを受けました。
同年代の私に彼と同じことができるかと言ったら無理ですし、ほとんどの人も無理だと思います。それだからこそ彼の名前は今でも知られているんでしょうし…。
カリウス氏の冷静さは少し怖いくらいのものがあって、やっぱり常人とは少しずれたような人が戦場で活躍できるのだろうか…と思ったりもしました。
個人的には、「泥まみれの虎」よりも、「ハンスの帰還」がお気に入りです。同じ本に収録されてますよ!
「泥まみれの虎」は実際あった戦いを元に描かれていますが、「ハンスの帰還」はオリジナルです。
Ⅳ号戦車とそれに乗るふたりの人物がメインのお話です。
「生きねばならん、Ⅳ号で」とあったのですがぐっときてしまいました…。
ローザという少女が出てくるのですが、宮崎作品安定の可愛くも勇敢な少女で…。ほんとに可愛いです(それまで登場人物が豚として描かれているのでなおさら)(オットー・カリウスも豚です)
あと機銃ぶっ放すおばあちゃんが出てきます。こっちも宮崎作品安定の強いおばあちゃん…
漫画ではないのですが、カリウス氏と宮崎氏の対談というか質疑応答が載っていて驚きました。
すごく細かいことまで質問する宮崎氏と、当時のことを昨日のことのように覚えておられるカリウス氏… 読んでいて少し圧倒されました。
そういえばもうすぐカリウス氏が亡くなられて1年なんですね…。
本をぱらぱらめくってみても、「風立ちぬ」は画面に青や緑が多く、風が吹き抜けるような爽やかな印象を受けるのですが、「泥まみれの虎」は黒やオレンジ(爆発の描写)が多いです。
「風立ちぬ」は、「飛行機は美しい」という考えで描かれていたと思ったのですが、「泥まみれの虎」では「戦車は薄汚れていて汚い」みたいな印象を受けました。
まあ「風立ちぬ」は作る側の人の話ですし、「泥まみれの虎」は使う側の人という違いはあるのですが…。
宮崎氏が飛行機と戦車に抱いている気持ちの差というか違いというか…そういうのが伝わってきます。
宮崎氏は決して戦車が嫌いなわけではないんです。飛行機も戦車も好きで、でもそれを表現しようとするとかなりの違い…それこそ天と地ほどの違いが生まれるんですよね。どちらも兵器なのに大きな違いです。なかなか興味深いです。